2008年6月2日月曜日

或る夜の出来事・2


昨日は、大事件の予告で終わりました。ではその大事件に入る前に、ちょっと復習です。


セッションの話題は、主に『ランジェ公爵夫人』(写真)だと言いました。そこで教えられたことをちょっと紹介すると…… 


まず、この映画は、途中に「暗転」があります、チャップリンの映画みたいに。見ているときはやや奇異な感じもしたのですが、これはいわば、「紙芝居」への回帰だというのです。映画は、1秒間に24コマで作られているわけですから、原理的には、「紙芝居」的なんですね、ナメラカなものではなく。この「暗転」は、それを観客に思い出させているようだ、というわけです。なるほど、まったく思いつきもしなかった解釈です。


それから、これは『ランジェ~』固有の問題ではないのですが、ヨーロッパを舞台にした映画の場合、19世紀のものも、案外撮りやすい、なぜなら当時の街並みが残っている場所があるから。それに対して日本では、江戸ならまだいい、太秦などのセットがすでにあるから。けれど、なかなか撮れないもの、それは明治を舞台にした映画だ、なぜなら、たとえば明治の東京の街並みは、もうどこにもないから…… 知りませんでしたけど、本当にそうだろうな、と思います。だって東京は2度、廃墟になっているのですから。そう、関東大震災と、第2次大戦で。


ちょっと話が逸れますが、この2回の「廃墟」の経験は、庶民にとってはほとんど同じ質のものだった、という見方を読んだことがあります。つまりそれらは、自分ではどうしようもないところから、突然降りかかってきたのだと。そう、終戦さへ、突然のものだったと言います、庶民レベルでは。今の東京は、2度の廃墟の経験を記憶していることになりますね。


さて、そうして充実したセッションは終わり、わたしは満足して立ち上がりました。すると、少し離れた席にいた2人の美女(ということにしましょう!)が、わたしに声をかけました。
「キヨオカくん?」
ああ、最後に「くん」と呼ばれたのはいつだったでしょう! でも今は、そんなことより……
「ええと?」
「同級生を、お忘れ!?」
現像しているフィルムに、徐々に絵が浮かび上がってくるように、抽象的だった美女それぞれの顔の上に、よく知っているもう1つの顔が、ゆっくり広がってゆきます。そう、卒業以来会っていなかった、大学の同級生でした!


しかも話してみると、1人はブエノスアイレスから、もう1人はホンコンから、1時帰国中というではありませんか。そんな2人とわたしが、雨のジュンク堂池袋店4階、「映画と文学」を語るトーク・セッション会場で、20年ぶりに出会うなんて!!


長く生きていると、色々な偶然に立ち会うことがあります。でも今回の偶然には、本当に驚かされました。つづく。(まだつづくの!?)