2012年1月27日金曜日

『肉体の冠』


『パリ歴史事典』には、「ゾーンzone(場末)」という項目があり、
これ「軍用地zone militaire」のことだ、と書かれています。
でその「軍用地」とはなにかというと……

昨日登場したティエールは、
首相を努めていた1840年代、パリを囲む城壁を造らせたことがありました。
いわゆる「ティエールの城壁」です。
「ゾーン」とは、この城壁そのものの外側に広がる、建物禁止地帯のことです。
幅200mで、パリをぐるりと1周していました。

この「ゾーン」は、ちょっと特別な空間で、
本来は建築禁止だったにもかかわらず、
屑屋やチンピラ、娼婦などが住みついたそうです。
基本「貧民たち」なのだと、書かれています。

そしてそのゾーンの雰囲気を伝えるものとして、
映画『肉体の冠』が挙がっており、久しぶりに見てみました。

http://www.dailymotion.com/video/x2engo_casque-d-or-la-guinguette_shortfilms

この酒場が、いわゆる「ガンゲット」と呼ばれるタイプのものなんですね。
かつては、城壁の外側に造られ、税金がかかる前の安い酒を提供していました。
ちなみにこれはゴッホ;


以前(もう30年前)見た時は、「フランス映画」として見たわけで、
その背景にある地誌的なことには目が向いていませんでした。
(ただドラマとして見ても、うまく作られているとは思いますが。)

で、見て、その後ネット検索してみたところ、舞台はベルヴィルで、
その(セット以外の)撮影は、44, rue des Cascades で行われた、とありました。
しかもその家は、主人公のモデルとなった実在の娼婦が、
本当に住んでいた家なのだとか。驚きました。
これがその写真;


しかもこの家の庭が、消えかかってる!?

http://www.dailymotion.com/video/xfcvy1_paris-20eme-le-jardin-de-casque-d-or-menace_news

でも待てよ。
ベルヴィルだとすると、そこは「ゾーン」ではなく、
いわゆる「小郊外」、つまり、
ティエールの城壁と徴税請負人の城壁に挟まれた地域、ということになりますけど?

ところで『肉体の冠』(1952)とは、今から見るとやや異様な感じさえする邦題です。
(『肉体の門』(1947)などからの影響なんでしょう。)
原題はCasque d'Or、「黄金の髪」。これは主人公である娼婦の名前です。

それにしても、同じ映画を見てるのに、
視点の違いでまったく印象が変わるものですねえ。