2015年3月20日金曜日

『撤退』

アモス・ギタイ監督の『撤退』、
見てみました。

予告編:https://www.youtube.com/watch?v=ZQbt2F6BZdw

F2の紹介ニュース:https://www.youtube.com/watch?v=v3o_tZdG6ts

以前見た、ギタイ監督の『フリーゾーン』は、
イマイチぴんとこなかったのですが、
この『撤退』は、なかなかいいと思いました。

この映画、2005年の、ガザ地区からの、
ユダヤ人入植者の「撤退」を題材としています。
ちょっと調べたところ、
種子島ほどの面積のガザには、14万のパレスチナ人が住み、
ユダヤ人入植者は8000人しかいませんでした。
ということは、このまま入植を続けても、
人口比的にユダヤ人優勢になるのは困難。
で、イスラエル国家は、入植者たちに国に戻るよう
命じたわけです。
でも、
もう長くその土地にくらし、
あるいはそこで生まれ育った者たちは、
そう簡単に「自分の土地」を捨てられません。
で、イスラエル軍が投入され、
変な話ですが、イスラエル軍が、
イスラエル人を、
ガザ地区から強制的に連れて帰ったわけです。
この事情が、
映画の大きな背景です。


(ちなみに、この入植について、
おもしろい記事がありました。
たしかに、「成功」している人たちは、
入植なんてしませんね。
で、儲かるのは……
http://www.diplo.jp/articles06/0608.html


物語のほうはというと、
これは監督も言うとおり、
相当にメロドラマ。
正直言って、
かなり無理をしてガザの状況にはめ込んだ物語です。

フランスのアヴィニヨンで、
ある国際法を教えていた元教授が死にます。
子供は二人。
離婚しそうな娘アンナ(ビノシュ)と、
イスラエル軍に属している養子の息子ウリです。
(ウリの母親と教授は結婚して、
連れ子であるウリを養子にした。)
葬儀で、二人は久々の再会。
でも遺言によると、
アンナが数十年前に捨てた娘ダナが、
ガザ入植地に住んでいて、
実は教授は、アンナに知らせることなく、
ほぼ毎年ダナに会いに行っていたのでした。
で、アンナは、ダナに接触して、
遺産を渡さねばならない……

フランスにいるときのアンナは、
なんというか、退屈したブルジョワの風情。
それが、
ガザの現状を見るにつけ、
表情が変わってゆきます。
ガザ入植地(キブツなのか、キブツ的なだけなのか)
の描写は、とても新鮮。
(どこまで事実なのか、わかりませんが。)
だから全体としては、
間違いなく興味深い映画でした。

弱点は、やはり物語。
まず、アンナがダナを「捨てた」経緯が、
ほとんど不明。
弁護士(ジャンヌ・モロー)の言葉から推し量るに、
どうもアンナは、かつてキブツにいて、
そこで頼る人もなくお金もなく、
ダナをおいてきてしまった……という風に受け取れますが、
あいまいです。
また、この母子は再会するのですが、
そのときの二人の反応も、
いい場面なんですが、
ほんとに? という感じも残ります。
これは、ラストのアンナの様子についても同じ。
さらには、ダナやウリはもちろん、
アンナもその父もユダヤ人だと思うのだけれど、
そのへんも少しあいまい。
(アンナは、父が話せたヘブライ語が話せないので、
彼女だけは違うのかも。
ウリは、フランス語を話したがりません。)
つまり、
おもしろいしいい映画だと思うけれど、
わたしには弱点と感じられる部分もはっきりあった、
というところでしょうか。

そういえば、
冒頭の数分だけ、
ウリが、
行きずりの女性(ヒアム・アッバス)と会話する場面があります。
このシークエンスは、とってもよかったです。
ヒアム、さすが。