2015年4月15日水曜日

Héritge

お気に入りの女優さんは?
と訊かれたら、
まず頭に浮かぶのは、わたしなら、
ヒアム・アッバスです。
彼女の出演作は多く見てきましたが、
今回は、ずっと気になっていた、
彼女が監督した長篇第一作、
Héritage
を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=jxCmpyHcSsg

舞台はパレスチナのガリラヤ。
イスラエルとリビアの間で戦闘が起きていますが、
いつの時代なのかは、あいまいにされています。
これは、ある家族の物語だといえますが、
それは、アラブ系の人々が住む町の、
あるアラブ家族です。

ひとりの立派な父親がいます。
彼は病気なんですが、治療を拒んでいます。
長男は、手広く仕事を展開させていますが、
実は資金繰りに行き詰まっています。
彼も、彼の妻(ヒアム)も、
古い因習に囚われています。
次男は医者ですが、クリスチャンのアラブ女性と結婚していて、
しかも子供ができないため、
周囲から冷たい眼で見られています。
不妊の原因は、彼の側にあるのですが、
世間は、異教徒と結婚したからだ、という見方です。
三男は、有力候補者の一人として、選挙活動の真っ最中です。
でも彼の家庭は崩壊寸前。
というもの彼は、ユダヤ人女性と浮気中で、
妻も子供たちも愛していないからです。
また彼は、イスラエル人とのパイプがあり、
「裏切り者」との非難も受けます。
長女は、父親の世話をしています。
その夫は、義父から資金提供を受け、
タクシー・ドライバーをしています。
彼は、この家族に寄生しつつ、反感を抱いています。
次女は、ハイファ大学の学生で、
美術教員の若いイギリス人と同棲に近い関係です。
でももちろん、異教徒で、しかも非アラブ人となると、
家族がこの関係に賛成するはずはありません。
実際長兄は、別れないなら、この妹を殺す気です。
これが主要メンバーで、
ここに長兄夫婦の娘たちや、
次女のいいなずけなどが加わり、
複雑な展開を見せます。

物語は、長兄の娘の結婚式から始まります。
このあたり、実は『シリアの花嫁』と似ています。
実際、父親と三男を演じた俳優は、
『シリアの花嫁』では、
父親と次男を演じていました。
また、アラブ社会における、
世代間の相克も明確に描かれています。

ただはっきりちがうのは、
彼らの町が<戦時下>にあるということです。
結婚式の、最後の記念撮影をしようとしとき、
ごく近い場所が空爆され、
会場はパニックになります……。

イギリス人と仲良くなった次女を演じるのは、
ハフシア・ヘルジ。
色んな映画で見ましたが、たとえばこんな作品がありました。

http://tomo-524.blogspot.jp/2011/04/la-graine-et-le-mulet.html
(『クスクス粒の秘密』)

http://tomo-524.blogspot.jp/2011/08/la-source-des-femmes.html

http://tomo-524.blogspot.jp/2011/04/francaise.html

というわけですが、
全体としては、いい映画だと思いました。
アラブ系パレスチナ人であるヒアムにとっては、
どうしても、
1度は作っておかなければならない作品なのでしょう。
ただ1つの弱点は、
登場人物が多いので、
やや人間関係をつかむのに苦労する点でしょう。
ヒアムには、もっと作ってほしいです。