2015年5月30日土曜日

Je fais le mort

『ナタリー』で、オドレ・トトゥーの相手役を務めた、
フランソワ・ダミアン。
彼が、ジェラルディン・ナカシュと共演した、

Je fais le mort (おれは死体のふりをする)2013

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=CFfn3nK3dBI

ダミアン演じるジャン・ルノー(←ジャン・レノに似せています)は、
かつてセザール賞の有望新人賞を獲ったこともある俳優。
でも、その頑固な完璧主義のため、
今や彼に声をかけてくれる監督はほとんどいません。
あわれジャンは、「ハローワーク」に赴くと、
そこで斡旋されたのは、「死体」になる仕事。
警察が、ある殺人事件を「再現」するにあたり、
その役者を募集していたのでした。
プライドを捨てた彼は、
その仕事をもらい、3日間の旅に出ます。
そしてそこで出会ったのが、
判事であるノエミ(ジェラルディン)。
二人の関係は、
そして事件の真相は、
というのが見どころです。

コメディなのですが、
事件の謎解きもなかなかちゃんとしていて、
犯人がわれる瞬間もうまく演出されていると思いました。
主役二人だけでなく、
脇役たちもしっかりしていて、
安心して見ていられます。

こういう、地味だけれどちゃんとおもしろい映画を見ると、
フランス映画の層の厚さを感じます。
(まあ、凡作もそれなりにありますけど!)

「フランス人の好きな歌」

BVA-Doméo-presse régionale が発表したアンケートによると、
フランス人の「好きな歌」第1位は、
これだそうです。

https://www.youtube.com/watch?v=Y_9vCcJniUE

そして2位は、ご存知ブレルの

https://www.youtube.com/watch?v=0k63grkip5I

3位は、

https://www.youtube.com/watch?v=kwTFAWwAHaA

日本だったら……
「津軽海峡冬景色」?

ちなみに歌手では、

Jean-Jacques Goldman
Jacques Brel
Georges Brassens

そして女性では、

Edith Piaf
Barbara
Céline Dion

だそうです。
これは、「美空ひばり」ですね。

2015年5月29日金曜日

『真夜中の刑事』

日本では、
長らくDVD 化されずにいたために、
「伝説のフレンチ・ノワール」
と言われることもある、

『真夜中の刑事』(1976)

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=wbDIVSWVvyI

引退間近の警察署長。
彼は資産家の妻(シモーヌ・シニョレ)を持ち、
車椅子生活の彼女をいたわり、
そしてこの妻の公認のもと、
若い愛人を囲ってもいます。
そしてもう一人の刑事、
イヴ・モンタン扮するフェローは、
養護施設育ちで、孤独を友とする男です。
この彼が、おそらく初めてなんでしょう、
若い女性に夢中になります。
そしてその女性は、
まさに署長の愛人でした。
しかし彼女は、二人の男の間に壁を作り、
署長とフェローはお互いの存在に気づきません。
そんなとき、ちょっとした言葉のもつれから、
署長が愛人を殺してしまうのです。
そして容疑者として浮かび上がったのは、
フェローでした……

なかなかハードボイルドで、
緊張感を持続させた佳作でした。
舞台はオルレアン。
フェローをヴァンサン・ランドンでリメイクしたら、
ヒットする気がします。

2015年5月28日木曜日

「住民投票の承認なき限り不可」

沖縄の問題は、
こういう考え方があったんですね。

http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=109756

「ゴリゴリの社会派作品」

朝日新聞の、カンヌ映画祭紹介記事。

http://www.asahi.com/articles/DA3S11773609.html

わたしは紙で読んだのですが、
この「ゴリゴリの」という言い回し、
気になりました。
コトバンクによれば、これは、

「 凝り固まってかたくななさま」

であり、決していい意味ではありません。
こうした主観的な表現を、
新聞紙上の「映画評」以外の場所で、
断定的に使うことには、違和感を覚えます。

2015年5月27日水曜日

『理想の出産』

懐かしの『ロミュアルドとジュリエット』。
そこでジュリエット役としてデビューした
フィルミーヌ・リシャールが出演しているというので、
この『理想の出産』を見てみたのですが……

これはイマイチというより、
イマサンくらいでした。
博士課程に在学中の若い女性と、
ビデオレンタル店で働く青年が、
なぜ、あんな豪華なデートを繰り広げられるのかわからないし、
結婚後も、お金の出所が不明だし、
青年が、何の苦も無く転職を成功させるのも不可解だし、
女性の実家が、誰一人働いている気配がないのに、
どうやってあんな大きな家に住み続けられるのかわからないし、
博士論文に取り組んでいる人間が、
どうじて、あんなに簡単に、ハイデッカーは無意味、
なんて言い出せるのか、理解できない……
というわけでした。

ヒロインのルイーズ・ブルゴワンは、
『モナコの娘』のヒロインでもあります。

Vincent Lindon !

ひいきの俳優である Vincent Lindon、
カンヌで主演男優賞を獲りました。
おめでとうございます!

http://www.europe1.fr/culture/pourquoi-vincent-lindon-a-eu-la-palme-970642

彼は、年を取ってよくなる俳優だと感じます。
つい先日見た作品はイマイチでしたが、
やはり彼が魅力ある俳優なのはまちがいないでしょう。
メインストリームの作品が主ですが、
それでも彼は好きです。
声もいいし。

2015年5月25日月曜日

『フィフス・エレメント』

先日ご紹介した
『アメリカ映画に見る黒人ステレオタイプ』で取り上げられている、

『フィフス・エレメント』

を見てみました。
この映画、公開は1997年。
公開されてからわりとすぐ見ましたから、
15年以上前、ということになります。
(『レオン』1994 の次の作品だったので、
期待も高かったわけです。)

エンターテイメントとしては、
特に退屈することもなく、
まあ楽しんで、最後まで見られました。
お話しの90% くらいは忘れていて、
ただ、いくつかの印象的な映像について、
見た記憶があるなあ、と感じただけでした。

『アメリカ映画に見るー』によれば、
いくつかポイントがあるようですが、
その中で、15年前にはまったく考えず、
言われてみれば「たしかに」と思うのは、
「黒人大統領」が登場している、という点です。
そう、オバマ大統領が誕生するのは、2009年1月。
つまり、この映画から見て、
12年後ということになりますが、
たしかに1997の時点では、
そんなにすぐ、黒人大統領が実現するとは、
ほとんど誰も考えていなかったんじゃないでしょうか。
(つまり、変わるんですね。
イスラム世界だって、10年すれば、
またずいぶん変わっているかも。日本も。)

それからもう1点。
第五の要素にして「至高の存在」、
つまり、「パーフェクト」な<存在>は、
白人女性の姿をしている、という点です。
リール―は、たしかに名前こそ東洋風ですが、
姿は、まぎれもなく、白人女性(ミラ・ジョヴォヴィッチ)。
そして、彼女と一緒に地球を救うのは、
白人男性(ブルース・ウィリス)です。
宇宙人である悪者の一派が、
時に黒人にすがたを変えることと考え合わせると、
偏りがあるのは否めませんね。

勉強になりました。

2015年5月23日土曜日

第2回終了

先週に続き、
「フランス体験講座<パリ>・第2回」
無事終了しました。
帰り際にお話しした生徒さんは、
軽井沢から来てくださったそうです。
来てくださったみなさん、
ありがとうございました!

さて、今日もまた、時間が足りなかったのですが、
シャトー・ルージュについては、
このヴィデオを見ていただくつもりでした。

https://www.youtube.com/watch?v=xMJD9HbONYw

これは、この映画の挿入歌です。

http://tomo-524.blogspot.jp/2013/01/toi-moi-les-autres.html

残念ながら、
最初の部分しか見られなかったのですが、
もしここをご覧になったら、
ぜひ全編を見てくださいね。

2015年5月22日金曜日

Je crois que je l'aime

『虚空のレクイエム』の監督である、ピエール・ジョリヴェ。
彼の作品である

Je crois que je l'aime

を見てみました。
ヴァンサン・ランドンが主演です。

https://www.youtube.com/watch?v=s2NsxWhLufk

お金持ちの社長さんと、
陶芸家の女性の恋物語なんですが、
はっきりイマイチ。
ヴァンサン・ランドンの出演作で、
こんなに平板なのは珍しいと思いました。

2015年5月21日木曜日

『国民の創生』

1915年公開と言いますから、
ちょうど今から100年前に制作されたこの映画、

『国民の創生』(The Birth of a Nation)

サイレントで3時間という、
心の準備がいる作品ですが、
見てみたら、意外にあっというまでした。

https://www.youtube.com/watch?v=vZ871wZd7UY

この映画は、毀誉褒貶相半ば、なんでしょうか。
(日本では、「誉」のほうが勝っているかもしれませんが。)

世界大百科事典をコピペすると、

〈映画芸術の父〉D.W.グリフィスが1915年に製作・監督した12巻,
2時間45分の大作(1930年に音楽と効果,音入りの短縮版がつくられた)
アメリカ映画史上の偉大な古典であるとともに,
そのあからさまな人種偏見(黒人差別)ゆえに
アメリカ映画史上最大の恥ともみなされる作品。
黒人の役はすべて白人が黒塗りで演じた。
原作はトマス・ディクスンの小説(舞台劇にもなった)《ザ・クランズマン》。
黒人が奴隷として売られるところから始まり,
白人の男(主人)が黒人の女(奴隷)に産ませた混血黒人の誕生,その反乱,
黒人圧迫集団KKK(クー・クラックス・クラン)の暴虐(と活躍)が,
黒人奴隷を使用する南部の綿花農園経営主一家と
黒人解放論者である北部の上院議員一家の交流と対立を中心に,
南北戦争,リンカンの暗殺といった歴史的事件をまじえながら,
壮大な叙事詩のように描かれる。」

ああ、そうでしょうとも!

見どころの一つは、
2h 36m 14s あたりからの、
ムラトー(混血)であるリンチが、
自分を引き上げてくれた政治家の娘(リリアン・ギッシュ)に
プロポーズする場面でしょう。
まさか、ムラトーに申し込まれるとは思っていなかった彼女の、
唖然とした表情。
ここにも、白人の本音の一つが見えます。
そしてその後のしぐさは、
「あなたなんか、鞭で打たれるわよ!」
ということなんでしょうか。

2015年5月20日水曜日

Aujourd'hui

フランス人の母親と、
セネガル人の父親を持つという、アラン・ゴミ監督。
彼の、長篇としては第3作目にあたる、

Aujourd'hui

を見てみました。
結論から言うなら、素晴らしかったです。

https://www.youtube.com/watch?v=GbR-5FiVCQg

舞台はダカール。
主人公のサシェ(演じるのは、アメリカのラッパー、ソウル・ウイリアムズ)は、
明日、死ぬことになっています。
彼は、彼が属する共同体で、
選ばれてしまったのです。
理由は本人にも、誰にもわかりませんし、
映画内で説明もありません。
とにかく、彼は選ばれ、
明日、いわば「生贄」のように、
死ぬことになっているのです。
二人の幼い子供と、奥さんもいるのにです。
親戚たちも友人たちも、
市役所のお偉方も、
みんなサシェを称えます。
あなたは勇者だ、偉い、というわけです。

これがセネガルの現実なのか、
それともフィクションなのか、
それさえもわかりません。が、
おそらくは、今は廃れた習慣かなにかなんでしょう。
でも見ていると、
(これはずいぶん勝手な読みかもしれませんが)
「不条理」というものの表現にも見えます。
まあ考えてみれば、
病気だって、事故だって、さらに言えば才能だって、
それは不条理なものです。
サシェはここで、「不条理」によって選ばれているのです。

彼は友人と、
ダカールの色々な場所を歩き、
色んな人に会います。
その中には、かつての愛人だったらしい、
美しいアーティストもいます。
(アイサ・マイガが演じています。
彼女が、アフリカの民族衣装を着ているのを、
初めて見ました。
いつもと違う貌の彼女も、印象的です。)

そして、これ以上は特に事件が起こるわけでもないこの映画の、
どこに惹かれるのかと言えば、
それはなんというか、画面の静謐さです。
意味ありげに長回しするわけではなく、
でも、それぞれの事物を見つめるその映像が、
とてもいい感じ。
物語と相まって、
世界への愛おしさ、
のようなものが伝わってくるのです。

そして実はこの感じは、
DVD におまけで入っていた短編映画にも、
共通していました。
アラン・ゴミ、
残る2本も探すことにします。

2015年5月17日日曜日

『ベッカムに恋して』

この映画、
今調べてみると、日本公開は2003年となっていて、
DVD化されたのも同じ年の秋らしいので、
わたしが最初に見たのは、
やはり2003年か、
遅くともその翌年だと思います。
おもしろそう、と思って見たのですが、
イマイチ?
と思った記憶が(はっきり)あります。
で、
あれから10年、
今日もう一度見てみたところ、
Mmm、おもしろい。
なぜあのとき、この面白さがわからなかったんだろうと、
自分の不明さにがっかりです。
まあ、それはともかく。

https://www.youtube.com/watch?v=bj74HKB4UaA

よく知られた映画なので、
ちょっと検索しただけでも、
とてもよく調べられているようです。
たとえば

http://britannia.xii.jp/cinema/title/bend_beckham.html

ここには、試合中「パキ!」と侮辱されたヒロインの怒りについて、
説明されています。
イギリスにおけるインド系とパキスタン系って、
こんなに仲が悪いんですね。
(で、監督のグリンダ・チャーダは、
そのへんはそのまま描き、
フォローはナシです。
こんなに面白い映画ですが、
イギリスのパキスタン系の人にとってだけは、
ややノレナイかも。)

あとは、ヒロインの家も、
ヒロインの姉のフィアンセの家も、
ともに相当の金持ちなのが、
ほんの少し違和感を持ちました。
経済的な問題は、
この映画にはほぼ存在しません。

原題は『ベッカムみたいに(クロス・ボールを)曲げろ!』。
いいタイトルですね。

『アメリカ映画に見る黒人ステレオタイプ』

これはなかなか惹かれるタイトルの新刊です。
で、今、半分まで、読んでみました。

ふだんでも、
白人に媚びる黒人に対して、
「アンクル・トム」などと揶揄的に言われるのを耳にするし、
太り気味の「マミー(乳母)」が、
白人の子供を世話する様子は、
ああまたこれ、と思いもします。

で、この本、
やっぱりこの2タイプは存在していることがわかりました。
(でも、その成立の経緯は知りませんでした。)
そしてこれら以外にも、
ああ、なるほど、
と思わせられるパターンが紹介され、興味深いです。
根っこには、
白人の、黒人に対する「恐れ」のようなものがあるのでしょう。

実はこの本、
(わたしの感覚で言うと)
「総合文化ゼミ」の授業用テキスト、
という印象があります。
もちろん、ふつうにも読めますが、
わたしは、授業に出て教わっている気持で読みました。
細かい枝葉はあえてスルーして、
骨格がわかるようにうまく整理されていると感じました。

さて、なぜ「半分」までしか読んでいないのかと言えば、
後半は、具体的な13本の、
前半を踏まえた解説になっているからです。
これから、13本、全部見るつもりです!

2015年5月16日土曜日

第1回終了

というわけで、
リバティー・アカデミーの第1回、
無事(?)終了しました。
おかげさまで、
ほぼ満員御礼となりました。
(ただし、このリバティー・アカデミーは、
明治大学にとっては、
利益の獲得を目指しているものではなく、
いわゆる「社会貢献」を第一義としているので、
受講者が増えることだけを考えているわけではありません。)

中には、
今、生田で開講中の講座に出てくださっている方や、
以前の講座を受講して下さった方など、
お顔を覚えている方も少なくありませんでした。
ありがとうございました!

来週の第2回では、短編映画を2本見ます。
お楽しみに!

2015年5月14日木曜日

<フランス体験講座 多面体パリの魅力>

今週の土曜日から、全6回、

<フランス体験講座  多面体パリの魅力>

わたしも、2回、担当します。

今、ハンドアウトを作っています!

https://academy.meiji.jp/course/detail/2244/

2015年5月12日火曜日

沖縄!

先輩同僚である浜口先生は、
沖縄出身の言語学者。
ただ彼には、もう一つ、
湊禎佳という詩人の顔もあります。

新詩集が発表されました。

http://www.shichigatsudo.co.jp/info.php?category=publication&id=aoiyumeno-inori

ここにあるのは、
書くべきことがある人間だけが持つ、
強い、張りつめた言葉です。

沖縄! 沖縄!

長田弘さん

一昨日、詩人の長田弘さんが亡くなりました。

子供の頃、何度も遊んでもらって、
その後40年経って、
一昨年、新宿で偶然お目にかかることができました。
その時のことは、ここに書きました。

http://tomo-524.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html

この時新宿でお目にかかれたことが、
ほんとに貴重なものになってしまいました。
お元気だったんですが。

御冥福をお祈りします。
ありがとうございました。

retweet

「僕には高度な詐欺師の手口に思える。
つまり自民が
「9条には抵抗あるでしょうから、まずは緊急事態条項をやりましょうよ」
と言うことによって、
抵抗する側も優先順位が混乱してしまい、
緊急事態条項に反対するよりも9条を守ろうとしてしまう。
でも自民の狙いは最初から緊急事態条項だという。
危険だ!」

https://twitter.com/KazuhiroSoda/status/597598677419458560

「自民改憲案によれば、
首相は緊急事態を宣言すれば
法律と同一の効力を有する政令を
勝手に制定できる。
つまりやろうと思えば、
政敵を牢獄に放り込んだり、
新聞社やテレビ局を閉鎖することもできてしまうだろう。
こんなものを「お試し」するの?
本丸は9条じゃなくてこっちじゃないの?

https://twitter.com/KazuhiroSoda/status/597596597115957248

2015年5月11日月曜日

Bienvenue chez les Ch’tis

アルジェリア生まれで、
フランスとアルジェリア、2つの国籍を持つカド・メラッド。
彼の出演作はとても多いですが、
たとえば、主演した

http://tomo-524.blogspot.jp/2014/02/jinvente-rien.html

や、ヒロインの父親役だった

http://tomo-524.blogspot.jp/2013/10/je-vais-bien-ne-ten-fais-pas.html

などが思い出されます。

そのカドが主演したコメディー、

Bienvenue chez les Ch’tis

を見てみました。
監督は、準主役であるダニー・ブーンです。

https://www.youtube.com/watch?v=_ZbGb8Tzi6o

南仏で郵便局員として働いているフィリップ。
彼には小学生の息子と、きれいな奥さんがいるのですが、
この奥さんが、ちょっとマイナス思考。
とにかく、コートダジュールに転勤してくれないと、
わたしの人生は……みたいに思い込んでいます。
が、フィリップの奮闘もむなしく、
転勤先はリールに近い北部に決定。
あわれフィリップは単身赴任となってしまいます。が、
この北部の町、
どんなにおそろしい未開地かと思いきや、
とても気のいい仲間たちに恵まれてしまいます。
その結果、彼らと、心配して優しくなった奥さんと、
この二重の生活は逆にハッピーなものに。
けれど、ある日、ついに奥さんが、
わたしも北部に行くと言いだして……
というわけです。

おもしろさのポイントは、
もちろん、北部の様子。
野蛮人が住む極寒の地、
というイメージと、
そのイメージを知っていて自虐的に楽しむ現地の人の陽気さ。
このへんが、とてもなごみます。
タイトルの Ch'tis は、この北部人、
ないし彼らの使う ch の音の多い方言を指します。
この言語は、彼らのアイデンティティーだと言ってもいいでしょう。

これは北部に限らず、
ブルターニュやバスクやプロヴァンスでもそうでしょうが、
パリ人にはわからない俺たちの言葉、
というのは、
やはりアイデンティティーに食い込んでいるでしょう。
そもそも「フランス」とは別の集団だったし、
革命時には、いっそ独立、を主張したわけですから。

方言の面白さが前面に出ているので、
日本公開は難しいかもしれませんが、
おとぎ話めいた、
心休まるお話しでした。

*チョイ役(モモ)で、ジヌディーヌ・スアレムの顔も見えました。

2015年5月10日日曜日

『ナタリー』

これも蔦屋で借りた一本、

『ナタリー』

を見てみました。
オドレイ・トトゥ主演です。

https://www.youtube.com/watch?v=KQvvzWDFLRg

ストーリーはシンプル。
ナタリーはフランソワと恋に落ち、結婚。
でもまもなく、フランソワは事故で亡くなり、
するとナタリーの心は冷たく閉ざされ、
仕事だけの人になってしまう。
本人も、もう誰も愛せないかも、と思っている。
でもそんなとき、いわば「さえない男」であるマルキュスに、
無意識に、知らないうちに、キスしてしまう。
それは一つの啓示のようなもので、
その後二人は少しづつ距離を縮めてゆく……

まあ、終わってみれば、ラブコメのようにも感じます。
あまりコメディタッチではないし、
ナタリーの最初の夫は事故で亡くなるので、
ふつうのラブコメとはちがうんですが。
ナタリーのはっきりした性格も気持ちいいし、
マルキュスの不器用さも好感が持てます。
嫌味のない映画だと言えるのでしょう。
(エンディングが、唐突な気もしますが。)

ナタリーとフランソワが出会ったのは、
ビュット・オ・カイユのカフェ、Les Cailloux です。
サンク・ディアモン通りを登り切ったところにあります。
若くて、飾らない地域ですから、
二人も、そういう存在として描かれているのでしょう。

http://scope.lefigaro.fr/restaurants/restauration/bistrots---brasseries---auberges/l-r214161-les-cailloux/static/

一方マルキュスは、スウェーデン人です。
だから、最初のデートでは、
こんな会話が交わされます。
マルキュスはナタリーの部下なので、
vouvoyer です。

「どうしてスウェーデンを離れんですか?」
「いや、それは質問の仕方を変えたほうがいいですよ、
どうして、スウェーデン人たちはみんな、
あそこを離れないのかってね」
「フランス語上手なのね」
「フランスに来て15年経ちますから。
その前はベルギーの大学にいたし」

フランソワという名前は、
よく見かけるわけですが、
やはり、「フランス」を思わないわけにはゆきません。
だとすると、この映画は、
フランス → スウェーデン
の映画だともいえるかもしれません。

2015年5月9日土曜日

Sous les jupes des filles

11人の女優たちが競演する、

Sous les jupes des filles 

を見てみました。
まさに、(いい意味で)競演という感じ。

https://www.youtube.com/watch?v=jQDlqAJcpZ0

物語は、込み入りすぎていて、
簡単には辿れないんですが、
たとえば、
ジェラルディン・ナカシュが演じるイズィスは、
27歳で3人の子持ち、夫は典型的な仕事オンリータイプ。
で、生活と、家政婦的な役割に疲れた彼女は、
マリというステキは女性に誘われ、
レスビアンの世界にのめりこんでゆきます。
また、ヴァネッサ・パラディ演じるローズは、
成功した会社の社長さんですが、
悩みは、友達が一人もいないこと。
でもまあ、この性格じゃあ……と思わせるわけですが
(予告編では、医者に対して、
C'est quoi, les femmes comme moi ?
わたしみたいな女って、どういう意味?
とキレ気味に言ってますね。)
で、新人秘書であるアドリーヌ(アリス・ベライディ)に命じるわけです、
わたしに友達を見つけなさい! と。
そしてこのアドリーヌは、実はイズィスの夫と浮気中で……
という感じ。
11人の女性それぞれに物語があり、
それらが、網の目のように絡まっているわけです。

この映画は、どうも評価が分かれているようです。
たしかに、これじゃこんがらがりすぎ、ともいえるかも。
また、(ないものねだりではあるのでしょうが)社会性がきわめて薄い、
ということもあります。
11人の中に、はっきりブルーカラーの女性は、一人だけです。
わたしも見ていて、前半は、
贅沢な愚痴を聞かされているようなところもありましたが、
見ているうち、登場人物たちの「もがき」がリアルに感じられてきて、
物語にの中に入ることができました。
だからトータルでは、
おもしろかったと言えそうです。

女優さんの中には、
コルシカ島出身のレティシア・カスタ、
父親がアルジェリア系である、
イザベル・アジャーニやアリス・ベライディなどが含まれています。
アリスは、この映画にも出ていました。

http://tomo-524.blogspot.jp/2013/04/les-kaira.html

こちらでは、アルジェリア系であることが前景化していました。
アジャーニはわかりにくいですが、
アリスの場合は、見てわかるマグレブ系です。
11人もいれば、当然入っていないとですね。
ちなみに、ジェラルディン・ナカシュはユダヤ人ですが、
それはまったく描かれていません。

男優たちについて言えば、
パスカル・エルベ(彼もユダヤ人です)や、
マルク・ラヴォワンヌが登場していました。

そして監督ですが、
これはなんと、
『君を想って海をゆく』で、
ヴァンサン・ランドンの別れた奥さん役を(切なく)演じた、
あのオドレー・ダナ! なんです。
これはびっくりしました。
監督もする人だったんですね。

2015年5月8日金曜日

今は昔

このところ毎週蔦屋に行く、
と昨日書きましたが、
以前は、この手のレンタル・ビデオ屋さんに、
ずいぶん通いました。
「以前」というのは、
30年ほど前でしょうか。

当時は、そうしたビデオ店に並んでいるのが、
すなわち「映画」であり、
イラリアン・ネオリアリズモにしろ、
アメリカン・ニュー・シネマにしろ、
もちろんその時々の話題作も、
もう手当たり次第に見てゆきました。
ある時期などは、
店のめぼしいビデオは見尽くした感さえありました。
(まあ、実際にはそんなはずはないんですが。)
となると、「映画」はつかんでいるような気もしました。
でもそれは、まったく誤解でした。

学生にもよく話しますが、
たとえばフランス映画の場合、
日本で公開されるのは、約20%程度。
つまり80%のフランス映画は、
日本には入ってこないわけです。
かりに、日本で公開されているすべてのフランス映画を見ても、
80%は見ていないことになります。
そして日本で公開されるのは、
要は日本的な「フランス」のイメージをなぞるような作品です。

もちろん、そこにはいい映画も含まれているでしょう。
当然です。
でも、やはり、それらによって「フランス映画」を語るのは、
そうとう無理があるでしょう。

そして最近また蔦屋に行きだして、
いわゆる「ビデオ屋」の雰囲気は、
数十年前とほとんど変わっていないことに、
とても驚かされました。
そこには「映画」があるのですが、
それは、
日本的な商業主義の御眼鏡にかなった作品群です。
映画の世界は、(ビデオ屋の「映画」も含めて)
もっと多様で、複雑で、深いものだと感じています。

2015年5月7日木曜日

リスボンに誘われて

このところ毎週、
蔦屋でDVD を借りるのですが、
メラニー・ロランが出ているという一点で借りたのが、

『リスボンに誘われて』

です。

https://www.youtube.com/watch?v=cd1mzrKQdyI

スイスのベルンで高校の先生をしていた初老の男が、
自殺未遂をしたある若い女性が持っていた一冊の本に導かれ、
リスボンに赴く、
そしてそこで、
その本の著者の過去を巡るさまざまなことを追ってゆく、
というお話です。
つまり、
現在を生きるスイス人教員と、
本の中の過去が、
いわば対位法的に描かれてゆきます。

本の中の過去とは、
カーネーション革命に至る、
戦後のレジスタンス運動です。
秘密警察(PIDE)との抗争の中で、
革命を目指す若者たちの、
まさに命を懸けた活動が、
現代スイスの高校教員を魅了するわけです。
(メラニーは、「過去」に登場します。)

この映画が、どういう意図で作られたのかは、
よく分かる気がします。
ポルトガルの現代史を描きたいけれど、
それを静的な歴史としてではなく、
今に繋がる歴史として、
青春として、
生の充実として、
描きたい、
それには、大河歴史物じゃなく、
現代と直接繋がる何かが欲しい……
そんな風に思ったのでしょう。

ただ、その意図が成功しているか失敗しているか、
それは微妙なところかもしれません。
まず、全員英語をしゃべっているのが、
ず~っと気になりました。
あり得ないですから。
それから、リスボンに向かう教員のモチヴェーションが、
描き足りていない気もしました。
(このあたりは、原作小説では、
クリアーされている可能性も十分あると思いますが。)

それから、あのシャーロット・ランプリングが出演していました。
『地獄に落ちた勇者ども』(1969)から、
45年も経っているのですね!

2015年5月6日水曜日

(そのまんま)Paris

これ、見たいです。


テレビ・シリーズですが、
やがてDVD になるでしょう。
(今でも、ここでなら有料で見られます。

http://boutique.arte.tv/rechercheSimple.html?dvd=on&vod=on&livre=on&motCleRechercheSimple=paris

『セリ・ノワール』

アラン・コルノー監督による、
1979年のフィルム・ノワール、

『セリ・ノワール』

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=iIG6wMYOZlc

いわゆる「いい映画」というのは、
なんパターンかあるのでしょうが、
この映画は、
主役(パトリック・ドヴェール)の魅力に負うところが大だと感じました。
(彼が若くして自殺してしまったことは、
かえすがえすもったいない……)

30歳過ぎの、押し売り家業の、ダメ男。
彼の妻もまた自堕落で、
二人の将来に明るい兆しはなにも見えません。
そんな時男は、営業をしかけたとある家で、
老婆が、自分の姪に売春を強要していることを知ります。
17歳の少女モナは、けれど、それ以外に、
コミュニケーションの方法を知らないかのよう。
背景が細かく語られるわけではありませんが、
学校もろくに行っておらず、
いわば美しい動物のよう。
男は、知り合いのギリシャ人ティキデスを誘い出し、
老婆を殺してその罪を彼になすりつける計画を立てます。
老婆が大金を持っていると、
モナから聞いたからです……

この物語の舞台は、パリ南東 Val-de-Marne のCréteil。
今はクレテイユ・ソレイユという、
大きなショッピング・モールがあるあたりが中心です。
当時は、うらぶれてくすんだ「郊外」でした。
クレテイユは、wiki によれば、
「急速な都市化で知られる」ということになっています。
たしかに、背景にビル群が映り込むことも少なくないですが、
泥だらけの空き地も、古い家並みもあり、
戦後の開発はもちろん、
この時点で、クレテイユ全域に及んでいたわけではないのでしょう。
このあたり、
1977年制作の『欲望のあいまいな対象』と、
デファンス地区の関係に近いかもしれません。

リュック・ベッソンも影響を受けたと言っていたこの映画、
主人公のエキセントリックな感じ、
日常からすべり落ちてゆくときの頼りなさ、
女性たちの影、
といった点で、
たしかに印象に残る映画でした。

2015年5月4日月曜日

「豊穣な沈黙、遠回りする行動力――ミショーとル・クレジオの方へ」

今や、若手のフランス文学研究者としては、
突出した一人となっている中村隆之さんが、
ご自身の翻訳書、『氷山へ』の刊行を機に、
B&B に登場します。

http://peatix.com/event/88567?utm_campaign=follow-organizer&utm_medium=email&utm_source=event%3A88567

教師は路上でタイプ打ちを止める。
「どこに行くのかね」
漁師は新聞売りの女のもとに行く。
「なあ、おれたちはこんなふうにしてどこに行くんだ」
若い女は青いレンズの入った眼鏡をしている。
「失礼、ムッシュー、あたしたちはどこに行くのです」

(……)

……いくつもの島、岬、山、窪んだ谷間、沖積平野が現れた。
都市では壁が立て直され、通りは仕事を再開した。寒さから
遠ざかり、空から遠ざかり、海から遠ざかったぼくたちは、騒
音を、ほかのことばを聞くようになりはじめ……
(『氷山へ』より)


そうそう、
中村さんが、『パリ移民映画』を紹介してくれています。

http://mangrove-manglier.blogspot.jp/

Merci beaucoup !


Suzanne

『戦争より愛のカンケイ』のサラ・フォレスティエ主演の映画、

Suzanne

を見てみました。
去年、フランス映画祭で、上映されたんですね。

http://unifrance.jp/festival/2014/films/09.html

サラは、このタイトル・ロールを演じます。

https://www.youtube.com/watch?v=yx76MvFMXi8

いい映画なんだと思います。
でも、ちょっとわたしには、辛いかな、見てるのが。
全編に悲しみが満ちていて、
その濃淡が満ち引きする感じ、でしょうか。
監督のカテル・キレヴェレは、1980年(!)生まれ。

早くに母を亡くした姉妹が、
トラック・ドライバーの父親に育てられます。
でも長女シュザンヌは、17歳の時、
シングルマザーに。
そしてその数年後、
たまたま出会ったジュリアンと恋に落ち、
すべてを捨てて、いわば「恋の逃避行」に出ます。

<以下ネタバレ>

シュザンヌは、家族も、幼い息子も捨て、
男と一緒に姿を消します。
そして2年後、彼女は刑務所に。
男と繰り返した強盗で、懲役5年。
そしてやっと出てきたとき、
息子は里子に出されています。
ドライバーという不規則な生活で、
幼い子を育てることはできなかったからです。
シュザンヌはいったん家族の元に戻りますが、
そこに、逮捕を逃れていた男が現れ、
彼女はまたも、みんなを捨てて旅立ちます。
そして…… また刑務所へ。
そして今度は、男との間にできた、赤ん坊と一緒に……

どうですか、悲しすぎませんか?
いろいろあるたび、どんどん老けていく父親。
でも彼は、娘を愛しています。
でも娘には、彼の愛情は少しウザイ……

妹役のアデル・エネルは、
この役で、セザール賞の助演女優賞をとりました。
たしかに彼女は、魅力的でした。
劇中、彼女がラジオに合わせて歌っていたのは、
これです。

https://www.youtube.com/watch?v=KVyZkQTx5xA

彼女は、『黒いスーツを着た男』の中では、
主人公の婚約者を演じていました。

http://tomo-524.blogspot.jp/2015/03/blog-post_11.html

はるかな旅

友人に誘われ、
浦和のキャンプ場まで、
バーベキューに参加しにゆきました。
いい天気で、
今はアウトドア向きの季節ですね。
友人のテントは大きくて、
なかなか居心地もよく、
アウトドア好きな人がいること、
十分納得できました。

そして行く途中、朝日新聞のこの記事、

「アメリカ最初の人類 移住でアジア系と白人混血?
http://www.asahi.com/articles/DA3S11736610.html

を読みましたが、
とっても面白かったです。
つまり、コロンブスよりはるか以前、
「ヨーロッパ」はすでにアメリカ大陸にいたわけですね……

この手の話題で、
基礎的なことを整理してくれるのは、

http://www.amazon.co.jp/%E3%81%BE%E3%82%93%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%9F%E3%81%A9%E3%82%8BNHK%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AF%E3%82%8B%E3%81%8B%E3%81%AA%E6%97%85-%E5%B0%8F%E7%94%B0-%E9%9D%99%E5%A4%AB/dp/4140053666/ref=sr_1_7?ie=UTF8&qid=1430668344&sr=8-7&keywords=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA+%E3%81%AF%E3%82%8B%E3%81%8B%E3%81%AA%E6%97%85

この本は、
「まいにちフランス語」でお世話になったディレクターも参加していたそうです。
いい本です。
つまり、「日本人」はまったく「単一民族」なんかじゃないということが、
明瞭に示されています。
(同シリーズの、DVD などもあります。)