2015年5月6日水曜日

『セリ・ノワール』

アラン・コルノー監督による、
1979年のフィルム・ノワール、

『セリ・ノワール』

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=iIG6wMYOZlc

いわゆる「いい映画」というのは、
なんパターンかあるのでしょうが、
この映画は、
主役(パトリック・ドヴェール)の魅力に負うところが大だと感じました。
(彼が若くして自殺してしまったことは、
かえすがえすもったいない……)

30歳過ぎの、押し売り家業の、ダメ男。
彼の妻もまた自堕落で、
二人の将来に明るい兆しはなにも見えません。
そんな時男は、営業をしかけたとある家で、
老婆が、自分の姪に売春を強要していることを知ります。
17歳の少女モナは、けれど、それ以外に、
コミュニケーションの方法を知らないかのよう。
背景が細かく語られるわけではありませんが、
学校もろくに行っておらず、
いわば美しい動物のよう。
男は、知り合いのギリシャ人ティキデスを誘い出し、
老婆を殺してその罪を彼になすりつける計画を立てます。
老婆が大金を持っていると、
モナから聞いたからです……

この物語の舞台は、パリ南東 Val-de-Marne のCréteil。
今はクレテイユ・ソレイユという、
大きなショッピング・モールがあるあたりが中心です。
当時は、うらぶれてくすんだ「郊外」でした。
クレテイユは、wiki によれば、
「急速な都市化で知られる」ということになっています。
たしかに、背景にビル群が映り込むことも少なくないですが、
泥だらけの空き地も、古い家並みもあり、
戦後の開発はもちろん、
この時点で、クレテイユ全域に及んでいたわけではないのでしょう。
このあたり、
1977年制作の『欲望のあいまいな対象』と、
デファンス地区の関係に近いかもしれません。

リュック・ベッソンも影響を受けたと言っていたこの映画、
主人公のエキセントリックな感じ、
日常からすべり落ちてゆくときの頼りなさ、
女性たちの影、
といった点で、
たしかに印象に残る映画でした。